7月29日午後、三重県の津市で開催されたイベントで、80分間講演をすることになっていた。私は30分間だけ講演し、参加者の方々にお詫びを言って会場を離れ、東京に急行した。そして新木場からヘリに飛び乗った。
広瀬隆さんからへリの手配と空撮をしてほしいと頼まれたのが6月。しかし私は福島の子どもの保養所準備で、沖縄・久米島現場を離れられない。そこでイラクでの中継などの経験ある綿井健陽さんにこの仕事を頼んだ。毎週金曜日、拡大していくデモのニュースを聞き、現場に行きたくて地団駄を踏んだ。
私のへリでの撮影経験は多い。チェルノブイリ原発もスリーマイル原発もハンフォード核工場もセラフィールドも福島原発もヘリで撮影した。エルサレムやガザは何度も飛んだ。
しかし今回の撮影はこれまでとは違った。夜の撮影である。昼間でもヘリは振動して、望遠でブレのない写真を撮るのは困難だ。夜だと感度を上げても、40分の1秒くらいでシャッターを切らなければならない。風があれば手振れ補正をかけても、どうにもなるものではない。
国会議事堂上空にさしかかった薄明るい頃、デモの人々が見つからなくて焦った。歩道は並木の陰だ。国会前は車しか見えない。そのうち暗くなると、人々の持つ明かりが見えるようになり、国会を包囲するように歩道を埋めている人々が浮かび上がった。そしてある瞬間に、歩道にいた人々が堰を切ったように車道に出てきた。同乗のOurPlanet-TVの白石さん、ビデオ撮影の綿井さんも驚く間に、人々が国会正門の道に溢れていく。ここで撮影に成功できなければ、みんなに申し訳ない。息を止めて何百枚と撮影した。そしてその中に何とか使える写真が見つかった。
私は高校生の時に大阪の反安保の御堂筋デモに参加した。私の高校から300人の生徒と教師たちが参加した。この日日本全国でデモを行ったのは600万人。国会前を埋めていく人々の姿を見て、私は涙が出るのをこらえられなかった。(広河)