昨年祖母を亡くし喪中だったため、新年のご挨拶は控えるつもりでいました。けれども年末から始まったイスラエルによるガザへの大規模な空爆が連日激しさを増し、辛い気持ちで年を越し、喪に服す思いは一層強くなりました。
でも私の気持ちを暗く重くしているのは、イスラエルによる空爆の事実だけではありません。この一連の出来事には大きなトリックがあり一般の報道も、政府の対応も、人々の反応もそのトリックに陥ったままであることが、状況を一層悲惨にしていることに心が張り裂けそうになるからです。
今回のイスラエルの空爆、そしてこのほど開始された地上での攻撃はイスラエルの言う『戦争』でもなければハマスのロケット弾阻止の大儀のためでもないことはイスラエルのこの60年間のパレスチナへの戦略をほんの少し学ぼうとすれば誰にでもすぐにわかるはずです。
小学生にだって。
これは戦争でもテロ対策でもなく、あきらかな侵略行為です。
60年前に始まったイスラエルのパレスチナ地方への侵略『NAKBA』の一環です。
ガザ側からロケット弾が打ち込まれる遥か昔からイスラエルによるこうした攻撃は姿かたちを変え繰り返されてきています。そして今回のガザへの大規模な攻撃は、周到に準備されたものでした。2003年夏ごろから突如として始まった封鎖の硬化。(それまでもパレスチナの人々にとってはイスラエルによる軍事封鎖のため移動も物資の輸送も著しく制限されていましたが、私たち外国人は交渉次第で出入りできました。それがそのころから国連職員、NGO、ジャーナリストが次々にガザに入れなくなり完全に封鎖されてしまったのです。)そして極めつけ、シャロン首相によるガザからの入植者撤退、世間に対しては平和的な行動のようにアピールされていましたが、入植地がなくなりいよいよ大規模な空爆を可能にし、準備を進めている気配がイスラエルによるガザへの激しい攻撃、侵略を予測させ、私の中に不気味な不安を掻き立てました。
この時7000人のガザの入植者を撤退するシャロン首相にブッシュ大統領は次のことを了解していたのです。
一、ほとんどすべてに近い西岸地区入植者の永久保存(約16万人)
二、イスラエル建国にともなうパレスチナ難民の帰還権の放棄
三、西岸に建てている隔離壁の建設
四、暗殺攻撃を含めた、パレスチナ抵抗勢力への攻撃
(このことはエリック・アザン『占領ノート』現代企画室の解説にも詳しく触れています。上記の訳はこの著書から引用しました。)
これまでどの米国大統領もイスラエルを擁護していてもパレスチナ難民の帰還権に触れることはありませんでした。それがブッシュ大統領は安々とその放棄を一方的に認め、さらに入植地を初めて認めた大統領に対し呆れ果て、その浅い判断による重い罪と、このため今後のしかかるパレスチナの人々の恐ろしい運命に、当時私たちは本当に落胆し、恐怖を感じたことを覚えています。またこの4つ目の暗殺攻撃を含めた攻撃の許可は今回の大規模な空爆の格好のステップとなりました。
それでもアフガン攻撃、イラク攻撃と次々に失敗し、米国民からもすっかり支持を失ったブッシュ大統領と、その大統領を支えてきたマスコミ、国際社会は、大きな反省と成長の元、イスラエルの暴挙は抑えられるだろうとどこかで楽観的な期待もしていました。
今回のような大規模な空爆を許さない国際社会の監視という抑止力が働くことを信じていました。
でもそんな期待はあっという間に吹き飛ばされました。
長期間封鎖され、食事も水も電気も仕事も失われつつあるガザの人々に対し、戦闘機、無人戦闘機(卑劣です)、戦車、軍艦を総配備してイスラエルは容赦なく攻撃をし、それを国際社会は止められずにいます。
そしてパレスチナ側からの抵抗は一切認めようとしません。イスラエルはロケット弾の発射区は攻撃せずに残しています。イスラエルの情報量、最新技術では、ピンポイントで人一人に絞って爆殺出来ますし、これまで何度もそれを行ってきています。でも、2006年のレバノンの時と同じ、核心は残し、ガザの歴史的建造物であるモスクや大学、マンションなど多くのものを攻撃し破壊し人々を犠牲にし続け、『パレスチナは人道危機にはない』と言い続けています。
いったいガザをどうするつもりなのでしょう。
先日知人が苛立ちながら私に質問してきました。
『どうしてハマスはロケット弾を撃ち込めば攻撃されることをわかっていて撃ち続けるんだ。』
その方は、イスラエルの攻撃は許されない、だけどハマスが攻撃を止めれば納まるのに・・・と心配していたようです。でもその言葉は私を深く傷つけました。困ったことに、こうした質問に答える的確な答えを探しても見つけることが出来ない自分がいました。パレスチナの状況は勘のいい人ならすぐに理解できるかもしれませんがほとんどの人は中に行って、パレスチナ側から世界を見てみないと理解するのは難しい。想像を絶する状況があります。
そして理解されない・・・ということが、本当に辛く孤立感や絶望感を生んでいます。私も以前は抵抗するパレスチナ側を批判していました。何故?と詰め寄ったこともありました。
でも闘わなくてどう生きたらいいのでしょう。私たちが食べないと生きていけないと同じくらいに、生きるために闘うしかなかったら。
そんな状況をどうやって私たちは想像できるのでしょうか。
パレスチナで聴いた言葉が今でも心に焼き付いています。
『信じてください。世界というものは、弱い人々の言葉を聞かないものです。』
食糧支援、教育支援、医療支援、金銭的支援
それらを命がけでやってもやっても人々が殺され続け、政治部門軍事部門と立ち上げ、それでも結局何をしても変わることの無かったパレスチナの状況を憂いながら、ハマスの幹部イスマイル・アブ・シャナブさんが涙をためて私に言った言葉です。
シャナブさんは2003年当時、イスラエルと闘っても軍事的にはかなわないことを私にはっきり言いました。
『共存しか道は無いのです。そのためにもまずはパレスチナ自治区内のイスラエルの軍事的政治的占領をやめてもらうことです。そして共存のための話し合いのテーブルにつくつもりです。』
シャナブさんは政治部門のトップで、インタビューをお願いするたびに繰り返し共存について発言しました。ラジオでも、日本のテレビ局向けにも発言していました。
でもそれは大々的には報道されず、シャナブさんは2006年夏、乗っていた車に対する戦闘機からのピンポイント空爆で爆殺されてしまいました。ハマスはイスラエルとの停戦に合意し、攻撃を止めている真っ最中でした。
その時私はイスラエル政府が望んでいることは共存でも占領の終結でもないことを知りました。停戦も和平など望んでいないことを。
それまでも、もしかしてそううかな?と思う節があっても、いや、まさか・・・と信じたい気持ちでいました。でもこの時知ったのです。
そしてシャナブさんの死を受けて、ハマスの残された人々は怒りに震え、停戦破棄を宣言しました。
『ハマス停戦破棄』は各紙大々的に報道され、ハマス側から停戦が破られた印象が世間を走りました。その後私もガザに入れることは無く、今のハマスの状況も、パレスチナの状況も本当には把握し切れていません。でもなぜ、新聞も報道のたびに「ガザを支配するハマス」と枕詞のようにつけるのか疑問は消えません。ハマスは、パレスチナの人々の選挙で勝ったアラファトを認めようとしないイスラエルと米国、国際社会の圧力により、国際監視団のもと正当な選挙で選ばれたパレスチナの第一党です。そうなったとたん、それを認めず、秩序を著しく乱しているのはイスラエル、アメリカ、そして私たちです。
マスコミに勤めている方たちにお願いがあります。
私たちの平和を望み、今の状況をペンの力で打開したいと思って記者になったのでしたら、マスコミにはその力があります。
でも記者のかたたちがいくらエルサレムに駐在したって占領地のことはわかりません。西岸やガザにもっと入ろうとして、ご自身の目で確かめてから記事にしてください。こんな時はガザに近寄り、どうしても中に入れない状況くらい自分でリポートしてみて欲しいと思います。
それからブッシュ大統領に声を届けることの出来る方にお願いがあります。
英雄になりたくてイラクもアフガンも経済もことごとく失敗してしまったブッシュ大統領に、あと一つだけ英雄になる方法が残されていることを誰か
伝えてください。残すところ後僅かな任期中にイスラエルの攻撃を今すぐストップさせることです。米国大統領の力において。
ブッシュ大統領にはそれが出来ます。
数々の失敗の後でも世界から尊敬され後世名を残す立派な大統領として幕を閉じることが出来るでしょう。
皆さんにお願いがあります。
私たちが今回の攻撃について正しく理解するためには少しでもいいので、イスラエルの建国から今に至る全体の流れを知ってください。
1月8日の試写会、ぜひいらしてください。また1月10日には子どもキャンペーンやアムネスティ、JVCなど日本を代表するNGOとともに、今回のガザへの攻撃に対して出来ることを模索し、イベントを企画中です。
何か良い案がありましたらお知らせください。パレスチナのことに関心が無かったり、あまり良く知らない方たちも巻き込んで出来る何かいい方法を探しています。詳細が決まりましたらまたお伝えします。
乱文、お許しください。
森沢典子
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「広河隆一アーカイブス・パレスチナ1948NAKBA」完成報告と試写会
長らくお待たせしました。DVD・BOX「広河隆一アーカイブス・パレスチナ1948NAKBA」は10月22日に日本語版全30巻(約45時間)の編集が終わり12月26日無事完成いたしました。(英語版30巻は来年2月ごろ完成予定)。NAKBA(大惨事=パレスチナ難民の発生)から60周年の今年にようやく間に合って、ほっとしています。そこでアーカイブス版完成報告と試写の会を以下の通り行いたいと
思います。お誘いあわせの上お申込ください。
日時:1月8日(木)18時40分開場 19時開演
場所:文京シビックホール・小ホール
(JR水道橋駅8分)http://www.b-civichall.com/access/main.html
プログラム:
アーカイブス版・序章(1時間17分)試写
「完成に寄せて」 板垣雄三氏(東京大学名誉教授・中東学会元会長)
「ここまでの道のり」 広河隆一(DAYS JAPAN編集長)
▲参加費▲
●一般 =1000円(参加費は当日会場で申し受けます)
●アーカイブス版製作募金寄付者・予約申込者 =無料
●『1コマ』サポーターズ会員(受付で申告してください)
DAYS定期購読者(バッジ持参) =500円
共催:DAYS JAPAN・広河隆一事務所
参加予約申込先:
《FAX》03−3322−0353
《メール》hiropress@daysjapan.net
(ご予約の際、無料・割引対象者は「先行予約者」などの項目をお書きください)
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DVD・BOX「広河隆一アーカイブス・パレスチナ1948NAKBA」(30巻)は次の価格で受付しています。
個人視聴用:日本語版20万円、英語版20万円、日・英語版35万円 (税金・送料込み)
図書館用:日本語版30万円、英語版30万円、日・英語版 50万円 (税金・送料込み)
申込先:広河事務所(担当魚住)03−3322−0353 hiropress@daysjapan.net
郵便振替口座:加入者名 郵便振替口座:00160-4-76817 加入者名:HIROPRESS CLUB
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