DAYS JAPAN 2012年10月号
告発された医師
山下俊一教授 その発言記録
告発された医師
山下俊一教授 その発言記録
ペンクラブの昨年の会議で次のように話した。「もし自分を作家と呼ぶなら、震災時に何をすべきだったのか」「ジャーナリストと呼ぶなら何をすべきだったのか」。これは自分たちのアイデンティティをかけた問いかけであり、同時に「作家」や「ジャーナリスト」を包み込む、より大きな「人間」というアイデンティティをかけた闘いだ。なぜなら人間、生物の命が脅かされているからだ。
20代のころパレスチナで、詩人のダルウィーシュに会った。彼が「身分証明書」という詩を発表した時、その最初のフレーズ「俺はアラブ人だ!」という言葉に、1000人の観衆が総立ちになった。これは「俺は人間だ!」という叫びだった。その人間というアイデンティティを崩壊させようとするのが戦争であり核である。
DAYS JAPANは事故後は食品放射能測定器やホールボディカウンターを福島に寄贈する募金を進め、その後DAYS被災児童支援募金を設け、子どもたちを守るための運動を続けている。しかし子どもを守るというごく当たり前のことのために、これほど多方面の闘いが必要だとは思わなかった。医師、メディア、教育委員会、科学者、政治家・・・・・・。ドイツは原発の行方を決めるために、倫理委員会を設置した。我々の未来を決めるためには、専門家の意見だけではなく倫理が必要なのだ。
子どもたちを放射能の囚人にしてはならない。急がなくてはならない。ペンクラブには具体的な行動を求めたい。こうした思いを込めて、今回は医師たちの責任に焦点を合わせた増ページ特集を組んだ。
このペンクラブ会議で誰かが言った「尖閣諸島や竹島どころではない。今私たちの国土は、放射能に侵略され、失われている。国境の内部にそれは起こっている」。この言葉が心に響いている。(広河)